店長、文豪としてMaglayを振り返る~その1:餡、店長になる~

 

 

吾輩はうさぎ店長である。

 

名前はもうある。

 

 

 

 

 

 

3年と幾月か前、吾輩を飼ってみたいという、
飼い主なる興な人間に引き取られ、その日のうちにつけられた名前だ。

 

 

真っ白な体躯であった吾輩の、かすかに入った尻の隅の部分。

 

「こいつ饅頭みたい。」

 

こともあろうに吾輩を和菓子になぞらえ、
「饅頭は言いにくいから餡子(あんこ)の餡にしよう」といった
安直極まりない発想よりつけられた名前だ。

 

動物を見て食べ物に例えるあたり、生態系の頂点に立っていると自尊する
人間の愚かな驕りと、鬼畜な性分に、吾輩は言葉を失い、失笑した。
(いや、元から喋れないとかは言わない。)

 

 

ふてぶてしい表情を見せる吾輩を見て、
「オードリーヘップバーンが演じたアン王女からもとってるんだよ。」
と機を敏に、機嫌をとりにくるあたり、この飼い主は
数多くの修羅場を潜り抜けてきたのだろうと、推測した。

 

 

この人間とは仲良くしておくべきである。
そう、初日にして悟ったものだ。

 

 

 

 

以後、2年半、吾輩にとって穏やかな時が流れた。

 

 

吾輩は、飼い主に逆らうことなく、手を噛んだり、ケージから小便を飛ばしたり、
家のコードをガジガジすることなく、おとなしくしていた。

 

飼い主もそんな吾輩を気に入ってくれたようで、
普通のペットうさぎとして、何不自由なく、むしろ過保護気味に育てられた。

 

 

 

・・・

 

 

 

てか、この「吾輩」とは何とも言いにくい言葉である。

 

明治時代の文豪に倣って、博識を披露してはみたが、
よくよく考えたら、今は平成であり、私はブログを記述する
最先端を突っ走るうさぎであった。

 

 

 

 

もはや誰かの轍を走るのではなく、私が道なき道を開拓すべきであろう。

 

 

いや、「言ってみたかっただけだろ」という冷徹な突っ込みこそ
人間の驕りというもので、うさぎ(3歳)の果敢なるチャレンジは
寛容な目で見ていくべきものであることを、私は強く主張したい。

 

 

決して、「この文体で最後までいくと、すっごいめんどくさいかもしれない」
と悟ってしまったからではないのである。
決して、挫折しそうになったからでもないのである。

 

 

決して、である。

 

 

 

 

さて、話を本題に戻す。

 

 

ある晴れた日の夕暮れのことだった。

 

風はほとんど吹いておらず、差し込む夕陽はいつになく優しく、穏やかだった。
外界では桜が咲きはじめ、眠っていた草花が、今まさに目を覚まさんとしていた。

 

 

私は、季節が移ろうとしているのを、いつものように
ケージの中で感じつつ、毛づくろいを行っていた。

 

 

冬の毛がそろそろ抜け始めるころだ。うさぎの体は暑さに弱い。
入念な夏への準備が必要になるのだ。

 

 

夏生まれの私にとっては、これで3回目の夏になる。

 

 

初回のように、秋になってから夏の毛への入れ替わりが始まり、
他のうさぎと明らかに異なる生えかわり中の姿で、
うさぎの会合に参加するという愚行は、もう犯すことはできない。

 

 

かつてその会合で新入りだった私も、もはや中堅の立場にある。

 

 

普段より後輩のうさぎを指導している先輩としての面目を保つため、
飼い主及び、他のうさぎのオーナーたちに爆笑されるという屈辱は、
何としても避けねばならぬのだ。

 

 

私が、そんな静かな闘志を燃やしている中、
静寂を突き破るように飼い主が小走りで帰宅した。

 

 

「餡ー。こっちおいでー。」

 

 

飼い主に呼ばれるのは久しぶりのことだった。

 

 

飼い主は、ここ数週間、牛だか馬だかの革を使った「靴」や「鞄」といった
人間にとっては便利だという道具に関する書物を読み漁っていた。

 

それこそ朝から晩まで、書物を手放さなかった。

 

 

結果、朝と夜の食事時、それと外出前後の挨拶しか私とは言葉を交わしていなかった。
私は、その関心がラビットファーにいかないことを切に願っていた。

 

 

「人参が待っているかもしれぬ。」

 

 

呼ばれたなら、行かねばならないのが、飼われている動物というものだ。

 

 

満面の笑顔を携え、馳せ参じてみると、いつもよりも飼い主も表情が穏やかである。
そして、片手に何か緑色の箱を携えている。

 

 

 

 

 

「あるでん?」
「Alden(オールデン)だよ。」

 

 

 

声にこそ出ていなかったが、飼い主は私の表情から聞きたいことを察したようだ。

 

 

 

飼い主はおもむろにその箱、中の袋を開け、私を膝に乗せる。
と、ともに私の横に出した靴を構える。

 

 

 

真新しい靴特有の、靴に残った染料のにおいが、うさぎである私には少しきつかったが、
膝の上に乗せられては身動きが取れない。

 

 

 

私は、顔をそむけ、急を凌ぐこととした。

 

 

 

 

カシャッ。

 

 

 

 

その瞬間、不意にシャッターの音が鳴り響いた。

 

 

驚き、上を仰ぎ見ると、飼い主と目が合った。

 

 

「今日から餡は、靴屋の店長だから。」
「一緒に頑張ろうね!」

 

 

飼い主は、私の反応を顧みることなく、連続して言葉を発する。

 

 

私は拒否する間もなく、店長となったのだった。

 

 

「触るなよ。」

 

 

私のすぐそばには、黒色の、よく分からん靴なるものが置かれていた。
どうやら私達は、これを売る店をやるらしい。

 

 

私は、両の目で、その商品である靴なるものを追っていた。

 

 

飼い主が、私の様子を察して靴なるものの説明を始める。

 

 

靴は、人間がその両の足を守るために外出時などに履いてでかける装飾具であること、
その中でも、目の前にある靴は高級な部類に入るもので、
コードヴァンなる素材を使っており、どうやら両の足に履く分で、
うさぎ一生分の餌代に匹敵する値段がかかるとのことらしい。

 

 

 

「な・・・ん・・・だと・・・。」

 

 

 

一生分の餌がこんなものより安い、だと!?

 

 

言葉を失った私の横で、落ち行く夕陽の光を浴び、靴はまばゆく輝いていた。

 

 

 

 

第2回につづく・・・(のか?)

 

 

 

 

さて、調子に乗ってこんなブログを掲載してしまいました。

1周年なので、何か違った形にしたいーと思っていたのですが、いかがでしたでしょうか。
好評であれば、たまに書いていきたいと思いますが( ´_ゝ`)

 

 

あ、セール告知ですよね。。。

 

 

次回こそ書きますので。

 

 

当店、チャーチと、ガジアーノ&ガーリングの取扱いが増えておりますので、
そのことも、次回書きますので!!

 

 

・・・

 

 

とりあえず、ま、また次回にてー。

 

 

 

うさぎ店長 餡より

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
Bookmark this on Google Bookmarks
Pocket

« »

↑トップへ戻る