連続革小説 Field of Rise (フィールド・オブ・ライズ)
~プロローグ~
喉の奥から込み上げる感覚とともに目を開けた。
記憶は曖昧だが、酒を飲んで帰巣本能だけで自宅に帰り、コタツに足を突っ込んで寝たのであろうことは想像できた。
斎藤歩夢(さいとうあゆむ)29歳。
中堅商社に勤めて6年目。
主任だかなんだかわからない肩書はついたが特に待遇が変わるわけでもなく、上京してから相も変わらず、武蔵境の安アパートに住み続けている。
大きなあくびをしようとして口を塞ぐ。
ついこの間、同じように酔って帰宅したときに、管理会社経由で騒音のクレームを隣室からもらい、必要以上に過敏になっているからだ。
直接言えばいいのに、と思ったが、歩夢が逆の立場でもそうしないことは、わかりきっていた。
投げ出されたタクシーの領収書の金額に「新宿か。またやっちまったな。」と、嘆きながら体を起こす。
ピシャッ
コタツに膝が当たると、捨てずに置いてあったカップラーメンの汁がこぼれた。
それを見ると力が抜けて、また「人をダメにするクッション」に身を投げた。
冴えない高校生活を終え、当たり前のように田舎を出た。
東京なら何か見つかるはずだと思っていたが、そう甘くはなかった。
大学を卒業し、それなりに就職活動をして希望を胸に入社した会社では最寄り駅からのバスがなくなるまで(終電はおかげさまで?間に合うが)働いても贅沢のできるような給料にはならない。
こうして週末に飲み歩いて、たまに財布やらケータイを失くしては買い換える費用で貯金は消えてしまう。
そういえば昨日も、意味がないと思いながら友人と愚痴を言い合って悪い酔い方をしていたな。。。
ふと玄関に目をやった。
光沢の美しい、バーガンディの見慣れない靴がそこにあった。
築30年のボロアパートには、存在してはいけないものに見えた。
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高級靴の販売店 Maglay オフィシャルオンライン革小説 Written by わたを