【前回のあらすじ】
金曜日のお決まり、酒をあおり泥酔状態で帰宅したうだつのあがらないサラリーマン斉藤歩夢。
目覚めてみると、玄関には安アパートには似つかわしくない、見たことの無い靴が!
連続革小説 Field of Rise (フィールド・オブ・ライズ)
こたつから飛び出て、這いずるようにして玄関に向かう。
カップラーメンの汁がさらに溢れたようだったが、気にも留まらなかった。
もう昼という時間になろうとして、西向きの窓から少しずつ差してきた日差しに、その靴は妖しい輝きを放っていた。
恐る恐る手に取ってみる。
丸みを帯びながらもスマートな顔立ち。
女性に例えるなら、グラマラスといった表現が合いそうだ。
縫製のひとつひとつが、靴に詳しくない歩夢にもその技術の高さを伝えるものだった。
何よりも歩夢を飛び起きさせたその革の美しさ。
新品のそれとは違う。
何年もかけて磨き上げられたことを誇っているような輝きだ。
バーガンディの宝石とも言えそうなその靴に見とれながらふと我に帰る。
この靴は俺のものじゃない。
目をつむり、首を左右に振り靴を床に戻す。
高鳴る心臓を抑えながら必死に昨夜の記憶を辿る。
1軒目は、確か大衆居酒屋だな。
二人とも冴えないサラリーマン。
飲むときは決まってチェーン店だし、実際に昨日もそうだった。
発泡酒か第3のビールかもわからないメガジョッキを三杯ほど空けて上気分になって店を出たのはまだまだ電車には余裕のある時間だったはず。
「二軒目、二軒目、、、」記憶をたどりながら再び靴に手を伸ばす。
そもそもサイズは合っているのだろうか。
自分の靴は忘れてきているようなので、この靴を履いてきたはずだ。
安堵のため息。
足を入れた瞬間に歩夢の口から漏れたのは、その足を包み込む革のやさしさの結晶だった。
「最高のワインはセックス以上の快感を与えてくれる」というなんともキザな表現を聞いたことがあるのだが、この靴の着用感はその言葉を思い出させた。
再び現実へ。
壁の時計に目をやると14時を回ったころ。
昨日の店を訪ねてみよう。
二軒目のアテはついていた。そこでどんな物語が待っているのかはわからないが。
(本編1へ)
高級靴の販売店 Maglay オフィシャルオンライン革小説 Written by わたを