【前回までのあらすじ】
泥酔で帰宅した翌日、見知らぬ高級靴が玄関にあるのを発見した歩夢。
記憶を頼りにその靴を入手したと思しき場所(飲み屋)へ向かう道程で元カノと遭遇し、甘酸っぱい記憶がよみがえる。。。
そして、新宿に到着。
連続革小説 Field of Rise (フィールド・オブ・ライズ)
青空にオレンジが混じり始めた空の下、新宿の街は歩夢のはや歩きを都度都度止めた。
信号にもよく引っかかるし、週末になってどこから出てきたのか、浮ついた人々でごった返していた。
特に、手をつないで歩くカップルがやけに目に付いたのだが、それはつい数分前の出来事がそうさせたことは間違いない。
気にしない、と思えば思うほど気になってしまう。
普段は着心地がよくてお気に入りのはずのエンジのスウェットを恨めしくつかむ。
彩夏は気づいたはずだ。
これが家着であることを。
なぜなら、ふたりでいる時にも、家では常にこいつを着ていたのだから。。。
彩夏はこんなだらしない自分に愛想をつかしてしまったに違いない。
ウインドウショッピングにはろくに付き合わないし、逆に彩夏が僕の服を選んでくれる、みたいなデートをした時にも「これでいいよ」とめんどくさそうに適当な服を選んだことがあった。
後日聞いた話だが、僕のファッションのダサさは彩夏が友人から指摘を受けるほどで、それを気にしてなんとか改善しようとしてくれていたらしい。
社会人になってからはスーツで助かっている。
サイズさえ間違えなければ、そんなに大きくはずすことはない。
なーんて言ってちゃダメなんだよな。そろそろいい子、見つけないと。
彩夏がいなくなって気楽に感じたのもつかの間。3ヶ月の時は寂しさという感情を歩夢に植えつけていたようだ。
そんなことを思いながら再び街に意識を向けると、いつの間にか明治通りに差し掛かっていた。
胃の調子は相変わらずだが、アルコールはすっかり抜けたようで目的の店までの道のりがしっかり描かれていた。
駅から離れまばらになってきた人を掻き分けながら進んだ先に、記憶と完全一致するその店はあった。
「新宿 なご美」
まだ開店時間ではないようだが、逆にちょうどいい。
諸々の後ろめたさを抑えながら、引き戸に手をかけた。
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高級靴の販売店 Maglay オフィシャルオンライン革小説 Written by わたを